ほおじろの声

ほおじろ巻頭言 2022年6月号

『沈黙の春』から 60 年

日本野鳥の会千葉県・幹事会

『沈黙の春』から60 年

「アメリカの奥深くわけ入ったところに,ある町があった。・・・ 道を歩けば,アメリカシャクナゲ,ガマズミ,ハンノキ,オオシダがどこまでも続き,野草が咲きみだれ,四季折々,道行く人の目をたのしませる。・・・たくさんの鳥が,やってきた。いろいろな鳥が,数えきれないほど来るので有名だった。春と秋,渡り鳥が洪水のように,あとからあとへと押し寄せては飛び去るころになると,遠路もいとわず鳥見に大勢の人たちがやってくる。・・・ ところが,あるときどういう呪いをうけたのか,暗い影があたりにしのびよった。・・・自然は,沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは,どこへ行ってしまったのか。・・・春が来たが,沈黙の春だった。・・・野原,森,沼知――みな黙りこくっている」。 レイチェル・カーソンの『沈黙の春』(青樹簗一訳,新潮文庫)の冒頭の一説です。原著が出版されたのは1962 年。農薬DDT の影響を扱ったもので,農薬が生態系攪乱をすること述べた古典とされます。

農薬はDDT からネオニコチノイドに

以後,DDT の使用は規制され,現代の農薬はネオニコチノイド系に代わっています。農業収益は保証されますが。ミツバチが巣に帰れなくなる被害が告発され,渡り鳥は個体数を減らし,動物の雄の精子数が減少し,繁殖率が下がっています。ネオニコチノイドは,EU では規制がされていますが,日本での規制は不十分な状態です。

現代版「沈黙の春」

2021-22 の冬,皆さんは,ツグミを何羽見たでしょうか? ユリカモメの越冬数はどうでしたか? 2022 年春,水田地帯でムナグロをご覧になりましたか? 『沈黙の春』から80 年,現代版「沈黙の春」は,確実に忍び寄っています。春も夏も秋も冬も,1 年を通して生き物の声と姿が減っているのです。野山の鳥だけでなく,海洋性鳥類の個体数も顕著に減っています。 現代版「沈黙の春」の原因は何か? 農薬,除草剤など,身の回りの化学物質の影響の他,放射性物質,地球規模の気候変動など,多様な原因があるでしょう。

クリーンエネルギー開発は正義ではない

温暖化対策の切り札として,クリーンエネルギー開発が社会正義となっています。大規模ソーラーと洋上の風発を建設することが,行政でも報道でも,正義・常識とされる動向に危機感を抱きます。 太陽光発電のエネルギー変換率は11% 前後。電力に変換されない分は大気圏に放出されます。緑被率低下でCO2吸収も減ります。 洋上風発は,建設工事中にスナメリの繁殖妨害をするでしょうし,完成後は海洋性鳥類の生息に影響を与えます。ただでさえ減り続ける海洋性鳥類への配慮が必要です。 一部報道によると、熊谷知事は洋上風発の誘致に前のめりのように見うけられます。脱炭素の時代にあっても、野生生物の生態を守るという姿勢を堅持してもらいたいと考えます。